高校卒業後、県外の大学に進学しました。
第二志望だったので浪人しようか、どうか迷ったのですが、
仲の良かったMくんはその大学へ入学する
ということだったので、浪人するより大学生活を謳歌しようと
自分自身をなんとか納得させていました。
ほんとにそれでよかったのか、今でもたまに考えることがあります。
まあ、そんなことはさておき、大学でのクラブ選択はとても重要です。
その後の、社会生活にも直結していく可能性もあるので、
色々入部体験させてもらいました。
すべて音楽関係のクラブでした。
実は、ギター以外の楽器で、すでに高校の時に聴いて衝撃を受けた楽器があります。
それは「津軽三味線」です。そのころは高橋竹山氏が大御所として活躍されていて、
テレビのドキュメンタリー番組を観たのをきっかけに三味線をやってみたいという
思いがふくらんでいました。
そんな思いに合致したのが「邦楽部」でした。
琴、尺八、三味線を演奏するクラブです。
津軽三味線を弾きたいという思いがつのり、結局最終的に「邦楽部」に
入部することになりました。
Mくんも一緒に入部しました。
18歳にして初めて三味線に触れました。
三味線パートは先輩の男性が2人だけ、琴は女性が20数人、尺八もやはり
そのくらい在籍していたと思いますが、なぜか三味線だけはメンバーが
少なかったのです。
なので、つきっきりで教えてもらった、ということもありますが、
ギターを長年弾いてきた経験から、難しくはなく、簡単にマスターできました。
三味線にはいろいろなジャンルがあります。
津軽三味線もその一つですが、代表的なものに地唄、長唄、浄瑠璃、清元、民謡
などの分野があります。
クラブでは、琴と尺八と三味線で演奏するため、地唄が多かったです。
「六段」という地唄の代表的な曲があり、それを弾きこなせば
他のたいていの地唄は弾けると言われていました。
長唄は三味線だけで数竿合奏のように弾くことが多いのですが、
結構早弾きがあったり、最初は曲にもよりますが、難しいと思いました。
ノリという意味では地唄より長唄の方がかっこいいと思います。
地唄が歌謡曲なら、長唄はJAZZといった感じかも?(かなり無理のあるたとえです^^;)
長唄で演奏したことがあるのは「吾妻八景」という曲で、これも結構有名な曲です。
肝心な津軽三味線ですが、これはクラブの練習が終わった後、
部室にレコードを持ち込んで、やはり、耳コピーしました。
津軽三味線は音使いが単純なのですぐに弾き方がわかるのですが、
レコードの演奏のニュアンスとどうしてもかけはなれたような感じが
するのは否めませんでした。
後日、といっても社会人になってから、ちゃんとした師匠につき、
正しい弾き方があるのだと気づかされるのですが、そのときは
それらしく弾いて満足していました。
それと、津軽三味線は太棹といって、普通の地唄用の三味線の竿の幅の
1.2~1.3倍くらいあります。
なので、津軽三味線本来の大きく響き渡る音をだすのは地唄用三味線では不可能でした。
邦楽部の定期演奏会は毎年1回開催されるのですが、地唄、長唄などのほかに、
「現代邦楽」の分野の楽曲も積極的に取り入れていました。
この分野では現代音楽の作曲家として有名な武満徹さんも多くの楽曲を残されています。
日本では「日本音楽集団」という現代邦楽を中心に活動しているグループが存在します。
従来の古めかしさをそこなうことなく、しかも曲調がモダンで古典の域を超えています。
琴は13弦ですが、それよりも弦の数が多い「十七弦」という琴や、琵琶、大太鼓、
小太鼓、鼓などの打楽器、横笛となる篠笛(しのぶえ)、竜笛(りゅうてき)などの
管楽器など多くのパートがあり、クラシックでいうところのオーケストラ的な編成です。
もう40年以上前になりますが、定期演奏会で演奏した、長沢勝俊さん作曲の
「人形風土記」という曲をYoutubeで見つけたので、どうぞお聞きください。
懐かしか~
卒業後、東京に就職しました。
私の楽器遍歴(ギター編)では、ギターをやっていたころのことを書きましたが、
その時期は、同時に津軽三味線も続けていました。
ギター同様、津軽三味線への執着も強くなっていき、80万円もする津軽三味線用の
太棹を購入しました。
そして、地元の津軽三味線を教えている社中に所属し、師匠に教えを乞うように
なったのです。
師匠は両目とも失明されていたので、演奏会でお供をするとき、
なにかとお世話をしていました。
私のことをかってくださっていたようです。
津軽三味線の代表的な曲に「津軽じょんから節」という曲がありますが、
基本的に楽譜がありません。
だいたい、5段(5章)あるのですが、それを師匠が弾くのを目で見、耳で聴き取り
演奏するのです。
ここで、中学、高校の頃、サイモンとガーファンクルの曲を耳で聴きとり
再現できるようになったことが生かされたと思います。
津軽三味線は音の数が少ないので、ある程度パターンがきまっていて
基本的な演奏ができるようになると、JAZZと同じで即興でも演奏できるようになります。
音使いがJAZZのブルースに似ていて、基本5音(ド、レ、ミ、ソ、ラ)を主に使います。
演歌でいうところのヨナ抜き(ファ、シを使わない)です。
自由自在とまではいきませんでしたが、三味線でちょっとした即興演奏をすることも
たまにありました。
今考えると、ばちの使い方が最後までうまくでなかったということだけ、
三味線を完全に弾かなくなった今、思い起こすと残念な点です。
さて、休みの日になると、各地で開かれる民謡のステージで三味線を
社中の方たちと演奏していました。
津軽三味線だけでなく、民謡を演奏したり、唄ったりもしていましたが、
津軽三味線以外は正直あまり関心はなかったです。
会社での演奏会ではバンドでのギター演奏とは別に、津軽三味線を独奏する
機会が増えていきました。
友人、知人、会社関係のひとたちの結婚式でも、頼まれて余興として演奏することも
何度かありました。
ただ、結婚式で三味線を演奏する時、特に気をつかわなければならないことがあります。
それは、三味線の糸(弦)が切れないようにすることです。
といっても、いつそうなるか予想もつきません。
実は、1度だけ会社の先輩の結婚披露宴でそれをやらかしてしまったことがあります。
途中で、一番細い弦(糸)が切れてしまったのです。
三味線の弦は、上から一番太い一の糸、真ん中の二の糸、そして一番細い三の糸と
よびます。
(ちなみに、ギターの場合は一番細い弦から1弦、2弦 ~6弦となります。
6弦が一番手前の一番太い弦です。)
やはり、物理的にも一番細い弦は切れやすいです。素材はナイロンですが。
もうそれ以上演奏できないので、深々とお辞儀をし(申し訳ないという気持ちを込めて)
引き下がりました。
会場の空気が一瞬ヒヤッとなったのを覚えています。
「切れる」→「別れる」→「離婚」を想像するのは容易なことですので・・・
とにかく、三味線は手入れが大変なので、糸(弦)もこまめに変えなければいけません。
一番神経を使うのが、三味線の胴体に貼られた皮です。
普通の地唄、長唄などの三味線の皮は猫の皮を使うのですが、
津軽三味線は犬の皮を使います。
湿気対策などをちゃんとやらないと、ケースの中に入れていても、
開けてみると破れていたということが何度もありました。
張替に1枚2万~3万もするので、三味線のメインテナンスは本当に気も使うし
お金も使います。
SAXもやりながら、三味線のほうは細々とたまーに練習するくらいでしたが、
相変わらず知人などの結婚式で、頼まれて三味線を弾く機会が何度かありました。
しかし、やはり独学だと、変な癖がついてくるのがこわかったので、
正式に習いなおすことにしました。
一度だけ宮崎在住の津軽三味線の先生に半年ほど教わったことがありますが、
結局は仕事が忙しかったこともあり、また、その頃は、ほとんどSAXの方に
関心が行っていたので、そのレッスンも途中でたち切れになりました。
そして、最終的には三味線とは決別することになります。
オークションに80万した津軽三味線を出品したところ20万で落札されました。
それからはもう三味線に触ることなく15年たちました。
今ではもう三味線に対する未練は全くなく、関心はJAZZ SAXにだけ絞られています。
「二兎を追うものは一兎も得ず」のことわざ通り、三味線をそのまま続けていたら
どちらも中途半端になっていたかもしれないので、これで良かったと思っています。
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